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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)6343号 判決

主文

被告は原告に対し七二万四、〇〇〇円、および内金二五万三、〇〇〇円に対する昭和三九年三月二六日以降、内金二四万六、〇〇〇円に対する同年同月三一日以降、内金二二万五、〇〇〇円に対する同年四月六日以降、右各完済に至るまで年六分の割分による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は、次の約束手形三通を、各満期((3)についてはその翌日)に支払場所に呈示したが支払を拒絶され、現に所持している。

金額            満期(昭和三九年)

(1)  二五万三、〇〇〇円   三月二五日

(2)  二四万六、〇〇〇円   同月三〇日

(3)  二二万五、〇〇〇円   同月五日

右いずれも、支払地振出地共東京都文京区、支払場所東京都民銀行春日町支店、振出人亜細亜塗装星浩、名宛人兼裏書人被告、被裏書欄白地。

二、被告は、右各手形を亜細亜塗装株式会社に対しいずれも拒絶証書作成義務を免除して裏書譲渡したものである。

なお、右各手形は、右会社から小宮義治に、右小宮から原告に順次交付譲渡されたものである。

三、よつて、原告は被告に対し、右手形金合計七二万四、〇〇〇円およびそのうち右各手形金相当部分に対する各満期の翌日以降右各完済に至るまで手形法所定年六分の利息の支払を求める、

と、陳述した。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、「請求棄却、訴訟費用原告負担」の判決を求め、答弁として、原告主張事実は、被告が本件手形を亜細亜塗装株式会社に交付した点のみ否認し、その余は全部認める。被告は本件手形を取得してからそれぞれに記名捺印して裏書したが、名宛人欄にもゴム印が押捺されていて融通手形の感があるため、昭和三九年一月二一日被告会社事務室において亜細亜塗装株式会社の梅本平治郎他一名から本件手形と各同一手形要件(ただし、名宛人欄ペン書)の手形三通の再交付を受けた。その際、被告は、本件手形には右の如く既に裏書をしていたため、それらを破棄するべく、たまたま被告会社営業部長降旗良平の机上においていたところ、右梅本らは、事務所の混雑と右降旗が席を離れた機会に乗じ、本件各手形を盗取したものである。

したがつて、被告は未だ裏書人としての責任を負うべきいわれはない。

と陳述した。

(立証省略)

理由

原告主張事実は、被告が本件手形を亜細亜塗装株式会社に交付したかどうかの点を除き、当事者間に争いがない。

成立に争のない甲第一ないし第三号証、証人降旗良平、同梅本平治郎の証言(後記信用しない部分を除く。)によると、被告は被告主張のとおりの経緯から、被告主張のとおりに、本件手形と手形要件を同じくする約束手形三通の振出をうけたこと、その際、右新手形を被告会社に持参した亜細亜塗装株式会社の梅本平治郎と右手形取引の事務処理に当つていた被告会社の取締役営業部長降旗良平との間に本件手形の返還に関する特段の話合がなされたわけではないが、右梅本は当然旧手形たる本件手形を右亜細亜塗装に持帰るべきものと考えてその返還を求める態度を示し、右降旗は新手形の手形要件が本件手形と同一であることを確かめてから、既に本件手形になされていた被告会社の各裏書を抹消すべきことに思い至らぬまま、それらを右亜細亜塗装に返還すべきものと考えて右梅本のいる応接用テーブルの上に差出したため、右梅本はこれを受領して右亜細亜塗装に持帰つたことを認めることができ、右認定に反する前記証人両名の証言は信用し難く、他に右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、被告会社は本件手形につき裏書人としての責任を負うに必要な右手形の交付を亜細亜塗装株式会社に対してなしたものというべきである。

しかして、他に、被告が原告の本件手形金請求を拒むに足る事由の主張立証はない。

よつて、原告の請求は全部正当と認めて認容し、民訴法八九条を適用し、仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

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